税金の役割:財源でないなら何のために税金があるのか

前回「税は財源ではない」って聞いたけど、じゃあなんで税金ってあるの?無い方が国民は喜ぶと思うけど…

確かに日本政府にとって税金は財源としての役割を持たないんだけど、他に大切な役割があるんだ!
前回の記事では、日本政府にとって「税は財源ではない」というテーマを取り上げました。
前回の記事では、政府の予算がどのように成立し、国庫の資金がどのように動いているのかを確認しながら、「政府が支出をするとき、国民から徴収した税金が使われているわけではない」という点を解説しました。
この説明だけを聞くと、
「税金がなくて支出できるなら、税金をなくせば全国民が得するのでは?」と考える方もいるかもしれません。
確かに日本政府にとって税は、「財源としての役割」は持っていないものの、別の重要な役割があります。
この記事では、そもそも税金は何のために存在しているのかを、具体例を使いながらわかりやすく解説します。
以下に該当する方はぜひ最後までご覧ください。
ニュースや社会の動きに興味がある人
前回の記事を読んで「税金の存在理由」に疑問を持った人
税金は政府が支出するためにあると思っている人
はじめに
前回の記事では、「税は財源(支出のための元手となるお金)」ではないというテーマを取り上げました。
日本政府が予算を執行するとき、実際に使われているお金は税金として集めたものではなく、国債を発行することで先に調達した資金です。
そして、税金は後から家計や企業から回収されるにすぎません。
この時系列を整理すると、「税金を集めてから使っている」というイメージとは順序が逆になっています。
これが前回の記事の要点でした。
「では税金は何のためにあるのか」これが今回のテーマになります。
政府の資料では「財源調達」としての役割が挙げられていますが、先ほどの説明で触れているのでこの記事では省略します。
税の役割①:景気調整機能

インフレとは
まず前提として「インフレ」という言葉について簡単に説明します。
インフレ(インフレーションの略)とは、「需要が供給能力を上回る状態」を指します。
具体例を挙げると、1日最大100個のパンを作ることができるお店に、120個の注文が来ている状態です。
そして、価格は需要と供給によって変わる側面があるので、インフレの状況下ではモノやサービスの価格が上昇することになります。
つまり、「需要(欲しい人)」が「供給(売られている量)」よりも多くなると価格は自然と上がっていくということです。
スーパーでキャベツが不作のときに値段が上がるのも同じ理屈です。
インフレについては以下の記事で詳しく解説しています。
興味がある方はぜひご覧ください。

景気が過熱しすぎると…
好景気(需要が大きくて商品等がよく売れる状態)が続くと、企業の業績が伸び、働く人の給料も増えていきます。
すると人々の手元にあるお金(=所得)が増え、消費もどんどん膨らんでいきます。
これ自体は別に悪いことのように思えないですが、行き過ぎると問題が生じます。
みんなが一斉にお金を使う状態、つまり「需要(欲しい人)」が急増する一方で、財やサービスを作る「供給」の量はすぐに(簡単に)は増やせません。
工場を新設したり、人を雇ったりと時間がかかります。
この結果、需要が供給を大きく上回る状態が発生します。
このような状況になると、世の中は品不足になってしまいます。
その結果、給料以上に物価が上昇したり、生活が実質的に苦しくなります。
新型コロナウイルスが出てきた当初、マスク不足になり価格が高騰しましたが、これは一気に需要が増えたためです。
こうして、行き過ぎた物価上昇(急激なインフレ)は、社会全体・経済全体の混乱をもたらします。
税金がブレーキ役に
ここで登場するのが、税金の「景気調整機能」です。
景気が過熱し、人々の所得が増えている局面では、所得税などの納税額も自然と増えていきます。
なぜなら、所得が多いほど税額も大きくなる「累進課税」が採用されているため、好景気で所得が伸びるほど、政府が徴収する税金の割合も自動的に大きくなります。
税金として徴収された分だけ、家計や企業の手元に残るお金は減ります。
手元のお金が減れば、消費や投資に回せるお金も減るため、需要の膨らみにブレーキをかけることに繋がります。
逆に不況期(財やサービスが売れない局面)には、所得の減少に合わせて納税額も自動的に小さくなります。
徴収される税金が減る分、家計や企業の手元により多くのお金が残るため、消費や投資が下支えされることに繋がります。
このように、税制の仕組みそのものに、景気の波を自動的にならす機能が備えられています。
また、自動的な機能以外にも、政府がその都度景気の状況を見ながら意図的に増税・減税を行う手段もあります。
両者に共通しているのは、税金には「景気過熱時には徴税額の増加」「不況期には徴税額の減少」を通じて景気を安定化させる役割があるということです。
税の役割②:政策手段

税金で人々を誘導する
税金の二つ目の役割は、「政策手段」としての機能です。
これは税負担を重くしたり、逆に軽くしたりすることによって、政府が国民の行動を望ましい方向へ誘導するものです。
何かにお金がかかるようになれば、人々はそれを避けようとします。
逆に何かが安くなれば、人々はそれを選びやすくなります。
この「損得で行動が変わる」という人間の性質を利用して、政府は社会的に望ましい方向に国民の選択を後押しすることができます。
具体例
たばこ
このわかりやすい具体例が「たばこ税」です。
みなさんもご存じの通り、喫煙は本人の健康リスクを高めることに加えて、周囲の人が煙を吸い込んでしまう受動喫煙の問題も引き起こします。
そして、たばこは食料品のような生活必需品とは異なり、人間的に無いと死んでしまうようなものでもありません。
そこで政府は、たばこにかかる税金を引き上げることで、たばこの価格そのものを上昇させ、購入のハードルを高める政策をとっています。
実際、厚生労働省が実施した調査によると、日本で習慣的にタバコを吸っている人の割合は15.7%であり、この10年間で男女とも統計的に見て減少していることが確認されています。
もちろん、喫煙率の低下には健康志向の高まりや禁煙スペースの拡大などといった様々な要因が関係していると考えられます。
しかし厚生労働省の報告書でも、たばこの値上げは消費削減に効果的な政策であり、価格の引き上げは喫煙率の低下に有効だという趣旨の指摘がされています。
つまり、「増税→価格上昇→消費を控える」という流れは、税金を使って国民を望ましい方向へ動かす典型例になります。
エコカー
先ほどのたばこの例では、国民の負担を重くすることで国民を誘導していることを説明しました。
一方で、税には「負担を軽くすることで国民を誘導する方法」もあります。
その代表例が「エコカー減税」になります。
※この記事では、この政策の賛否には触れません。
排出ガス性能や燃費性能に優れた自動車を購入した場合に、自動車重量税などが免税・軽減される制度です。
たばこ税が「増税」によって望ましくない行動にブレーキをかける仕組みに対して、エコカーは「減税」によって望ましい行動を促す仕組みです。
環境性能の良い車を買えば税負担が軽くなるとなれば、消費者はそちらを選びやすくなり、結果として環境負荷の少ない自動車の普及が進みます。
このように、税金は社会が目指す方向へ人々を後押しする役割も担っています。
税の役割③:格差の縮小

もし税金がない世界だと…
3つ目の役割は、「所得や資産の格差を小さくする」という機能です。
もし税金が全く存在しない世界を想像してみてください。
お金持ちの家庭は、稼いだお金をそのまま手元に残し、それを元手に株式や不動産投資を続けることができます。
投資で得た利益は、また次の投資の元手になります。
このサイクルが世代を超えて繰り返されれば、資産を持つ家庭はますます豊かになっていきます。
一方で、そもそもどれだけ所得を得られるかは、本人の努力だけではなく、生まれた家庭環境や時代のめぐりあわせといった「運」に左右される側面も小さくありません。
この状態を放置すれば、
努力とは関係のないところで貧富の差がどんどん固定化・拡大するおそれがあります。
もちろん、全員の所得が完全に同じになる社会は、頑張った人が報われないという意味で不公平感を生み、それが望ましい姿とも言えません。
しかし、格差が行き過ぎると、貧困層と富裕層との間で対立が起きる可能性が高まります。
治安の悪化や国民の分断は、社会全体にとって大きな負の影響が出てしまいます。
累進課税や相続税
そこで必要になるのが、税金を通した所得・資産の再分配です。
日本の所得税は、課税される所得金額に応じて5%から45%までの7段階に税率が分けられています。
所得が多いほど高い税率が適用される一方、所得が少ない人には低い税率が適用されるため、高所得者には重い負担を、低所得者には軽い負担を求める設計になっています。
さらに、亡くなった方の財産を相続する際にかかる「相続税」にも、10%から55%までの累進的な税率が採用されています。
政府は相続税について、この累進的な税率構造を採用している理由を「資産再分配機能」として位置付けています。
このように、
行き過ぎた格差社会を防ぎ、社会を安定させるために、高所得者・資産家により重い税負担を求めます。
これが税金の3つめの役割になります。
まとめ
この記事では「税は財源ではない」という前回の記事の議論を踏まえた上で、では税金は何のためにあるのかを、3つの役割に分けて見てきました。
好景気で所得が増えれば税収も自動的に増えて需要の膨らみを抑え、不景気で所得が減れば税収も自動的に減って需要の落ち込みを和らげる。
増税によって望ましくない行動にブレーキをかけたり、減税によって望ましい行動を後押ししたりする。
累進課税などによって、放っておくと拡大し続けてしまう所得・資産の格差にブレーキをかける。
おわりに
税金の話は、どうしても「取られる」「損をする」というマイナスのイメージが先行してしまいます。
しかし、その仕組み・機能を見ていくと、景気の安定化・社会にとって望ましい行動の後押し・行き過ぎた格差社会を防ぐという、私たちの生活にとって大切な役割が見えてきます。
そして、この税金の使い道や税率・控除の仕組みといった具体的なルールを最終的に決めているのは、私たちが選挙で選んだ国会議員たちです。
だからこそ、税金の仕組みを理解した上で、自分たちの一票がどのような社会を選ぶことに繋がるのかを考えることは、大きな意味があると思います。

この記事が皆さんの参考になれば幸いです^^
< 出典 >
財務省:https://www.mof.go.jp/
国税庁:https://www.nta.go.jp/
厚生労働省:https://www.mhlw.go.jp/index.html

