「個人の正解」が「社会の不正解」に!?合成の誤謬を解説

日本が経済的に豊かになるには、みんな節約・貯金してお金持ちになれば良いんじゃない?

う~ん…実はそれは間違いなんだ。
個人(ミクロ)の視点と全体(マクロ)の視点は異なるから説明するね!
「無駄遣いを減らして、コツコツ貯金するのが正解」
多くの人が、親や学校の先生などからこのように教えられてきたはずです。
家計簿をつけて支出を見直し、将来に備えて貯蓄を増やすことは、常識的にも「良いこと」「賢いこと」として語られます。
別にこれ自体、何かが間違っているということではありません。
ところが、社会全体(経済全体)という視点で見ると、良い行動が「悪い結果」を生んでしまうことがあります。
個人にとっては正解なのに、全員が同じことをすると社会全体では不都合な結果になるーーこの不思議な現象を「合成の誤謬(ごびゅう)」と言います。
この記事では、日本が長く経験してきたデフレを背景に、節約・貯金という身近な行動から「合成の誤謬」について1から解説します。
以下に該当する方はぜひ最後までご覧ください。
ニュースや社会の動きに興味がある人
デフレを社会全体で理解したい人
個人の視点と全体の視点を同一視している人
個人の「経済的な正解」とは
はじめに、この記事の土台である家計レベルの「経済的な正解」とは何かについて触れていきます。
多くの人にとって、「経済的な意味での正解」は次のようにまとめられます。
自分が持っているお金をできるだけ増やすこと
そのために、無駄な支出を減らし、節約し、貯金を殖やすこと
具体的には、
・外食を減らして自炊を増やす
・不要なサブスクを解約する
・セールやポイント還元を活用して支出を抑える
などといった行動です。
これらは家計の観点から見れば、ほぼ間違いなく「良い行動」です。
将来の不安(病気・失業・老後)に備えるためにも、貯蓄を増やすことは合理的な判断と言えます。
また個人の安全・安心を守るという意味でも、「無駄な支出を減らし、貯金を増やす」という選択は、経済的な正解として広く受け入れられていると思います。
デフレ
デフレとは
最初に「デフレ」について見ていきます。
デフレは、英語の「deflate(しぼむ)」が語源です。
つまり、「需要(買いたい・使いたいという気持ち)がしぼんでいく状態」がデフレの核となる部分です。
デフレ(デフレーション)は、広辞苑では次のように定義されています。
物価が持続的に下落すること
以上を踏まえてデフレの状態を図で表すと以下のようになります。

「供給できる量に対して需要が少ない状態」これがデフレです。
つまり、「一時的にセールで安くなった」という話ではなく、「多くの財やサービスの価格が全体として、ある程度の期間にわたって下がり続ける状態」を指します。
物価が下がる理由は、生産してもその分の財やサービスが売れないので、企業側が値段を下げざるを得ないことです。
物価が下がると、一見「生活が楽になる」ように見えるかもしれません。
しかし、物価が下がると企業の利益も減少し、賃金も減少します。
そして賃金が下がるので人々は財やサービスの消費を抑制し、企業は商品が売れないから値下げをし…
と、これが連鎖していきます。
デフレ時に取る行動
このデフレの状態が続くと、企業や個人はどのような行動をとるのでしょうか?
「企業」と「個人」に分けて見ていきます。
企業
デフレの時、企業は次のような行動をとります。
・設備投資を減らす
・人件費を抑制する
・銀行からの借り入れを減らすor返済する
需要(モノやサービスを買ってくれる人・企業の数や量)が弱い状況では、新しい工場や機械に投資をしても、その投資を回収できるだけの売上が見込みにくくなります。
作っても売れない可能性が高いので、企業は慎重にならざるを得ません。
このことは実際にデータからも確認できます。

このグラフは次のように見ます。
マイナスに行けば企業が銀行からお金を借りて投資を行っている
プラスに行けば企業は銀行に借金を返済し、投資を渋っている
日本はバブル崩壊とともにデフレに突入することになりましたが、このグラフを見ても1900年代頃からその傾向が表れ、1900年代後半にはプラス(企業が借金返済をしている)に回っています。
さらにデフレ下では物価が下がるため、企業の利益も減少し、企業にとって「借金の重さ」「人件費の重さ」が増すことになります。
その結果、企業は「今は投資を増やすより、借金を減らし、コストを削るべきだ」と判断しやすくなります。
つまり、設備投資を控え、人件費を抑え、広告費などの支出も減らす方向に動きます。
個人
また、家計(個人)の側から見ても、デフレの時に支出を減らすという行動をとることになります。
こちらは、より感覚的に理解しやすいと思います。
景気が悪くなると、ボーナスカットや非正規雇用者の増加などで、私たちの手取り収入が減少しやすくなります。
そして将来への雇用不安(リストラ・非正規化)などから、「今のうちに貯金しておかないと不安だ」という気持ちが強くなります。
また、給料が下がってしまうので、今まで買っていたものでも「お金がないから買うのをやめておこう」という判断に繋がり、買い控えが起こります。
こうした状況で「今までよりも買う量を増やそう」と考えるのは、個人の感覚からすると「おかしな行動」だというのは理解できると思います。
ここまでをまとめると、
デフレ下では企業も個人も、それぞれの立場から見れば「支出を減らす」のが自然な行動になるということです。
社会全体で見ると
誰かの支出は誰かの所得に
まず押さえておきたいのは、「お金の流れ方」です
皆さんが何かを買う時、その価格分のお金を払うことになると思います。
そのお金はあなたの財布からは出ていきますが、世の中から消えるわけではなく、必ず「誰かの所得」になります。
スーパーで食品を買えば、その代金はスーパーの売上になり、従業員の給料などに回ります。レストランで外食をすれば、その代金は店の売上になり、シェフやホールスタッフの給料などになります。
つまり、誰かの支出は必ず誰かの所得になっているのです。
みんなが一斉に支出を減らすと
ここで、デフレの不安の中で企業も個人も「支出を減らす」行動をとったとします。
企業が設備投資を減らすと、建設会社や機械メーカーの売上が減り、そこで働く人々の所得が減ることに繋がります。
家計が外食や旅行を控えると、飲食店や観光業の売上が減り、そこで働く人々の所得が減ることになります。
このように、誰かの支出の減少は、別の誰かの所得の減少として跳ね返ってきます。
個人の「良い行動」が社会全体の「悪い結果」に
ここで、最初に確認した「個人の正解」を思い出してください。
個人や企業にとっては「無駄な支出を減らし、節約し、貯金を増やすこと」は合理的で良い行動です。
しかし、社会全体で同じ行動が同時に起こると、支出の減少が所得の減少を生み、景気を悪化させます。
その結果、社会全体として「悪い結果」をもたらしてしまいます。
このように、
ミクロ(個人・企業)のレベルでは合理的で「良い」とされる行動が、マクロ(社会全体)のレベルでは「悪い結果」をもたらしてしまう
という現象を「合成の誤謬(ごびゅう)」と呼びます。
解決方法:政府が必要な理由
個人の選択に任せても解決しない
デフレの時、個人や企業が支出を減らし、節約・貯蓄を増やすのはそれぞれの立場から見れば合理的な行動だと説明しました。
しかし、ここに大きな問題があります。
支出削減・節約が個人の利益に適っている限り、
「みんなが節約する状態」は自然には解消されない。
つまり、「合成の誤謬」が起きている状態を、個人の自発的な選択だけに任せておくと、いつまで経っても解決しにくいのです。
誰もが「自分の家計を守る」ことを優先するのは当然であり、「景気・日本経済のために、あえて自分の支出を増やそう」と考える人は少数派です。
ここで必要になるのが、「個人の合理的な行動」と「社会全体として望ましい状態」のギャップを埋める存在である「政府」です。
政府がすべきこと①
政府が取り得る手段の一つが「減税」です。
減税とは、所得税や消費税などの税負担を軽くすることで、家計や企業の手元に残るお金(可処分所得)を増やす政策です。
税金として国に吸い上げられる分が減るため、同じ収入でも自由に使えるお金が増加します
デフレで需要が弱いときに減税を行うと、家計や企業は「少し余裕ができた」と感じやすくなり、消費や投資を増やすきっかけになります。
もちろん、減税をしても増えた手取りの全てが消費や投資に回るわけではなく、一部は貯蓄に回る可能性がありますが、「何もしない場合」と比べれば間違いなく支出を増やす方向に働きます。
ここで重要なのは、減税が「個人の合理的な行動」と矛盾しない形で、支出を増やす余地を作る点です。
個人は依然として「節約したい」と思っていても、手元に残るお金が増えれば、その一部を消費に回すことができます。
政府がすべきこと②
もう1つの重要な手段が「政府の財政支出の増額」です。
政府が公共事業を行えば、
その支出は建設会社の売上になり、そこで働く人々の給料にもなります。
政府が給付金や補助金を支給すれば、
それを受け取った人たちの所得が増えることになります。
ここでも、「誰かの支出は、別の誰かの所得になる」という原理が働きます。
民間(企業や家計)が支出を減らしているときに、政府が代わりに支出を増やすことで、社会全体の所得の落ち込みを和らげることができます。
ここで言っている「政府が支出を増やす」とは、例えば次のようなことです。
- 公共事業(道路・橋・学校・病院などの建設・改修)を増やす
- 失業給付や子育て支援、年金などの社会保障を充実させる
- 一時的な給付金などで家計の所得を増やす
これらはすべて、「政府が支出する」ことで、民間の誰かの所得を増やす行為です。
デフレで民間の支出が弱っているときに、政府が意図的に支出を増やすことで「合成の誤謬」から生じる悪循環を和らげることができます。
おわりに
ここまで見てきた内容から次の構図が浮かび上がります。
- デフレの時、個人や企業は支出を減らして貯蓄を増やすのは、それぞれの立場から見れば合理的な行動である
- しかし、社会全体で同じ行動が同時に起こると、支出の減少が所得の減少を生み、景気を悪化させる
- その結果、社会全体としては「悪い結果」になってしまうが、それを解決できる一番大きな存在が「政府」である
ここで大事なのは、
「だから節約は悪い」「だから貯金するな」という単純な話ではないという点です。
むしろ個人の安全・安心のためには貯蓄は必要であり、その一方で社会全体で見ると景気が悪いときは「誰かが支出を増やす」ことも重要になります。
その「誰か」を担うのが、政府の財政支出や減税などになるということです。
また、私たち有権者はその政府の構成員を選んでいる一義的な存在であり、選挙で投じる1票は非常に大きな意味があると思います。

この記事が皆さんの参考になれば幸いです^^
【出典情報】
内閣府:https://www.cao.go.jp/
日本銀行:https://www.stat-search.boj.or.jp/
