実質賃金を上げる方法 名目賃金との違いから日本の現状まで1から解説

毎年給料は上がっていくのに物価も上がるから手取りが増えた気がしないよ…

そう、給料が上がってもそれ以上に物価が上がると意味がないんだ。今日はそれに関する実質賃金について解説するね。
「給料の額面は上がっているのに、生活はむしろ苦しくなっている気がする」
皆さんはこのような違和感を覚えたことはないでしょうか。
その違和感の正体の一つが「実質賃金」になります。
給料の額面が増え続けていても、実は貧しくなっているということは十分に考えられます。
それが今の近年の日本の現状でもあります。
今回の記事では、実質賃金の基礎から日本の現状、そして実質賃金を上げるために考えられる方法までを順番に解説していきます。
経済などの知識がない方でも理解できるように、難しい用語等はできるだけ嚙み砕いて説明するので、ぜひご覧ください。
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日本の賃金事情について知りたい方
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実質賃金
実質賃金とは
まず最初に「実質賃金とは何か」について説明します。
実質賃金とは、「物価の変化を考慮した上での給料」のことです。
例えば、皆さんの給料が1年間で5%上がったとしても、物価がそれ以上に上がっていれば実際に変えるモノは減少してしまいます。
つまりこの場合、皆さんは貧しくなっていると言えます。
この「給料の額面だけではわからない部分を示したのが実質賃金」という訳です。
ちなみに実質賃金は、次のような考え方で作られています。
実質賃金 = 名目賃金 ÷ 消費者物価指数1
名目賃金との違い
実質賃金と同じように耳にするワードとして「名目賃金」もあります。
では、この名目賃金とはどういったものなのか説明します。
これは非常にシンプルで
名目賃金とは、物価の変動を考慮に入れない「給料の金額そのもの」を指します。
つまり、皆さんが会社等からもらった賃金の額がそのまま名目賃金になるということです。
一方で実質賃金は、名目賃金を物価の上昇分で割ることで「その給料でどれだけのモノが変えるのか」を示します。
つまり、私たちの生活が楽になるためには名目賃金ではなく、実質賃金を上げていく必要があるということです。
日本の実質賃金の現状
直近の実質賃金
ここからは、日本の実質賃金が今どのような状況にあるのかを整理していきます。
厚生労働省の毎月勤労統計によると、2026年に入ってから1月分と2月分の実質賃金が前年比で上回ったとされています。
これは、賃金そのものの伸びや、ガソリンの暫定税率廃止等による物価の落ち着きが影響したと考えられます。
ただし、これはあくまで「1年前と比べた場合」の話です。
長期間で見た実質賃金
実質賃金指数は、ある年を100とすることで、その年と比べてどれくらい豊かになっているのかを比較することができます。
そして、2015年を100とした長期のグラフを見ると次のようになります。

これを見ると、最新の2025年の実質賃金は95を下回る水準になっています。
つまり、2015年と比較して2025年の私たちが買えるモノの量は5%減少しているということです。
さらに、
より長いスパンで見ると、実質賃金は1990年代後半にピークを迎えています。
実質賃金指数がピークだった1996年は約115となっており、その値と比較すると2025年は約18%も低くなっていることが分かります。
つまり、この約30年間で日本人の給料が18%減っているのと同じことを意味しています。
これは例えば、年収500万円だった人が年収410万円になるのと同じです。
日本の実質賃金は短期的には上下しますが、長期的には1990年代後半から大きく下がった状態が続いているということになります。
これがいわゆる「失われた30年」と言われる所以ですね。
実質賃金を上げる方法
「じゃあ日本はもう無理だ」
こう思うのはまだ早いです。
確かにこの30年間、全体的に日本人は貧しくなり続けてきましたが、実質賃金を上げる方法はいくつかあります。
ここでは考えられる4つの方法を順番に検討していきます。
減税・補助金を実施する
まず1つ目は、「減税と補助金」になります。
実質賃金は「給料÷物価上昇」で考えますが、実際の生活では税金や社会保険料の負担も大きく影響します。
そのため、減税や補助金は実質的な生活の余裕を増やす効果があります。
例えば次のようなものが考えられます。
・電気代に対する補助金
・ガソリン価格の抑制策
・所得税や住民税の減税
これらは、世の中の物価を下げる効果を持ちます。
なぜなら、例えば電気代が補助金によって下がると、企業の手元に残るお金は増え、価格を下げやすくなるためです。
直近で言うと、ガソリン税の暫定税率廃止によってガソリンの価格が下がったことを実感された方も多いと思います。
生産性を上げる
2つ目は「生産性の向上」になります。
実質賃金を長期的に上げるうえで、最も重要なのが生産性の向上になります。
この生産性とは、「1人が生産できる財やサービスの量」を指します。
例えば
毎日100個のパンを作っていたパン屋さんが、機械化・自動化などによって毎日200個のパンを作れるようになったとします。
これが「生産性の向上」になります。
生産性が上がると、
・企業や個人の利益が増える
・従業員の賃金が上がる
という流れが生まれます。
このように、働く時間が同じでも生産量が倍になれば、単純に所得も倍になります。
そして、これが実質賃金の上昇につながります。
労働分配率を上げる
3つ目は「労働分配率を上げること」です。
労働分配率とは、企業が生み出した価値のうち、どれだけの割合を従業員の給料として配分しているかを示す数字です。
つまり次のような計算で求められます。
労働分配率 = 人件費 ÷ 付加価値
例えば、利益が年間1億円の企業が従業員に支払う1年間の給料の総額が5000万円だった場合、労働分配率は50%になります。
理屈としては、労働分配率を上げればその分賃金を増やすことは可能です。
なので結果として実質賃金が上がることに繋がります。
しかし日本の企業の現状は下の図を見るとわかると思います。
出典:https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2022/chusho/b1_1_6.html

大企業は労働分配率が50%台で、まだ企業が賃上げをできる余裕は持っている状況ですが、中小企業は状況が異なります。
中規模企業で80%、小規模企業で80%後半となっています。
つまり中小企業においては、企業が生み出した価値のほとんどを既に人件費として支払っている状態です。
このような状況で「もっと賃上げしろ」と言ったところで、なかなか厳しい現状があります。
そのため、
企業としては生産性の向上とセットで考える必要があります。
そして、政府としては最低賃金の引き上げではなく、どうすれば企業の手元に賃上げの原資が残るのかを考えた政策が必要になってきます。
具体的には減税などが考えられます。
輸入物価を下げる
最後の4つ目は「輸入物価を下げる」ということです。
日本の現状、エネルギーや食料、原材料の多くを海外から輸入しています。
そのため、
輸入物価(海外から買うモノの価格)が上昇すると、国内の物価も上がりやすくなります。
2022年頃の物価上昇は、まさに円安によるものでした。
円安が進行すると、今まで1ドルと交換するのは100円で良かった状況が150円払わないと1ドルを手に入れることができなくなってしまいます。
つまり、同じドル建ての価格でも円で支払う金額が増えるため、輸入物価が上昇します。
輸入物価が上がると、
・電気代
・ガソリン代
・食品価格
などが上がることになり、家計の負担が増加します。
その結果、実質賃金は下がりやすくなります。
輸入物価の影響を和らげるには、
・為替介入等の極端な円安を避ける経済運営
・エネルギー政策の見直し
・特定の国や資源に依存しすぎない仕組みづくり
などが考えられます。
どれか1つではない
これまで実質賃金を上げる4つの方法を見てきましたが、これらは1つだけ取り組めば良いというものでもありません。
これらが組み合わさって、私たちの生活の余裕を決めています。
まさに現状、ガソリン税の暫定税率廃止によってガソリン価格が減少したにもかかわらず、アメリカとイランの関係悪化に伴うホルムズ海峡封鎖などの影響で一度下がったガソリン価格が上昇しています。
もしかすると、今後再び実質賃金がマイナスになるかもしれません。
おわりに
今回の記事では「実質賃金」について、様々な角度から見てきました。
実質賃金という言葉は、一見すると専門的で難しそうに見えるかもしれません。
しかし、その中身は給料の額や物価の変動、税負担などと言った私たちの生活に直結する要素の組み合わせです。
ニュースで「実質賃金が○ヵ月連続で上昇/マイナス」といった見出しを見たとき、その意味が具体的にイメージできるようになれば理解も深まります。
この記事が、経済の知識がない方にとっても日頃の経済ニュースを「自分ごと」として考えられる入口になれば幸いです。

目の前の数字だけではなく、世の中の全体像と結びつけると見える世界も変わると思うよ
- 消費者が買う財やサービスの価格の変動を把握するための指標 ↩︎
